なぜ、政府支出を増やすことが経済成長に繋がるのか〜成田悠輔氏の「情弱ビジネス」発言に反論する【池戸万作】
■GDPの計算式から政府支出がGDPを増やすのは明白
先ほど紹介したように、支出面のGDPを表す計算式は、GDP=個人消費+民間投資+政府支出+純輸出(輸出-輸入)である。この計算式からも明確であるように、右辺の政府支出を増やせば、左辺のGDPも当然のことながら増えることになる。この計算式が、政府支出を増やせば経済成長となる明確な根拠だと考えるのだが、番組内ではイマイチ伝わらなかった模様である。
もう少し具体的に述べると、例えば、年収0円の失業者を年収300万円の公務員として雇えば、まず政府支出(政府最終消費支出)が300万円増える。その後、その失業者から公務員になった者が、新たに何か物やサービスを購入すれば、GDPの個人消費の項目も増える。しかも、購入「量」が増えることになるから、これは名目値だけでなく実質値でも増えることになる。極めて単純な話ではあるが、実はこれが経済成長の正体なのである。こうした支出によって経済成長は起こるものなのだ。
また、政府支出にはもう一種類、公的固定資本形成という項目がある。いわゆる公共事業費になるが、例えば公共事業で新たに高速道路を建設すれば、その道路沿いには、新たに民間企業の工場が立てられるかもしれない。これによって、今度は民間投資も増え、やはり経済成長となる。このように政府支出によって個人消費や民間投資も増えることを「乗数効果」と言う。なので、政府支出を増やせば、個人消費や民間投資も増えると考えられるのが一般的であろう。
対して、経済学の世界ではクラウディング・アウトと言って、政府支出を増やした分、市場にあるお金の量が少なくなって金利が上昇し、個人消費や民間投資が減るかのような説が述べられる。しかし、MMT(現代貨幣理論)が指摘したように、実際のところは政府支出を行えば、新たな預金創造(通貨発行)がなされ、市場のお金は増加するのである。だから、政府支出では市場の金利が上昇することもなく、投資が減退することも無い。加えて、仮に金利が上昇して多少は個人消費や民間投資が減退するとしても、政府支出の増加分以上に減退することは現実的には非常に考えにくい。
また、完全雇用状態にあると、供給能力不足によるクラウディング・アウトを指摘する人もいる。政府支出によって公共事業を行うと、その分労働者などを取られて民間のビル建設などが滞ってしまうといった指摘だ。しかし、そういった需要過多で供給能力不足の事態に陥った時こそ、生産性の向上が発生する場面ではなかろうか。何らかの工夫や対応をして生産性を向上させることよって、公共事業も民間のビル建設も滞りなく行おうとするのが、資本主義のダイナミズムであると私は考える。
あと、政府支出を増やしても、輸入も増えて純輸出は減ってしまうのではないかという指摘もある。確かに、政府支出によって輸入が増えることは間違いなくあると私も思う。しかし、日本の名目GDP(2021年度)541兆円に対して、輸入額は110兆円と約2割程度に留まっており、政府支出の増額分と同額以上の輸入が増えることは、現実的には到底考えにくい。その年の政府支出の増額分を全て輸入によって賄おうとする、政府支出など果たして存在するのであろうか。屁理屈では言えても、現実的に起こり得るかは極めて懐疑的である。
以上のように、政府支出を増やせば、乗数効果によって個人消費や民間投資も増え、輸入の増加によって多少純輸出は減少するかもしれないが、政府支出の増額分以上の輸入増加は現実的には考えられないので、全体のGDPは増え、経済成長になると言える。こうしたことは高校の政治経済で習うことであり、高校の教科書通りに、素直に受け取れば良いだけのことではないだろうか。